屈曲加圧と伸展加圧のメリット・デメリット。菅平FECの佐々木明選手と小山陽平選手のスキーの滑り方を比較してみた。 PR含む

Photo:Photo:Akira Sasaki/shutterstock.com
スキーの滑り方には屈曲と伸展の2つに分けられ、それぞれに長所と短所があります。上下動のあり方も変化してるので今回は「荷重」のやり方について解説します。
スキーの荷重には大きく分けて2つあり
- 伸展加圧:膝を伸ばして荷重(オデルマットや佐々木明選手など。40歳以上に多い印象で急斜面に強い滑り方)
- 屈曲加圧:膝を曲げて荷重(小山陽平選手や技術選選手に多い。30歳以下に多い印象で緩斜面や中斜面に強い滑り方)
の2種類に大体のスキーヤーが分かれます。
どちらもメリット、デメリットがありますが、マテリアルの性能が向上し、世界的には屈曲加圧の方にやや有利な傾向があるのかなと最近強く感じます。
2014年に国内でも話題になった
スキー技術選はなぜ中腰ターンが評価されるのか?スキーの基本は上下動だ論争
はマテリアルのさらなる進化でまた変わってきていますし、実際に若い人の真似をしてみましたが
あ、深回りが簡単になった
というのもわかってきたので、2025年度版の上下動のあり方、屈曲と伸展について書いてみたいと思います。
佐々木明選手は急斜面、小山陽平選手は中緩斜面に強い滑り方

なぜここ10年、全日本ナショナルスキーチームが結果を残せなくなってるのか。
今回は独断と偏見も入りますが、個人的には
皆川賢太郎さん、湯浅直樹さん、佐々木明選手の3人が活躍した(佐々木選手は現役)時代は急斜面に強いタイプの選手が多かった。今は中緩斜面が得意な選手が多い印象
と感じてます。
もちろん、ポールセットの傾向が全然違うので一概に比較はできないですし、実際に今も急斜面を日本選手は滑ってますからこれはあくまでも「印象レベル」の話で留めて欲しいです。
そもそも日本人は後傾姿勢になりやすい体格なんて聞いたことありますが、個人的には関係ないんじゃないかと思ってます。
菅平のファーイーストカップなんか見ても日本人選手は欧州選手と互角に戦えますが、W杯の舞台に行くと
- ありえないくらいのアイスバーン
- 急斜面
- 振ったポールセット
になるので、急に日本人の成績が悪くなります。
何が言いたいかと言うと
世界で通用した日本人アルペンスキー選手は皆腰の位置が高い。2本目に進めない日本人選手は腰の位置が低い
という感じになり、個人的に欧州で開花する日本人選手はポールセットの傾向が変わっても腰高の選手が多いのではないかと思ってます。
もちろん、全体的に姿勢低めの選手でも工夫してW杯のセットを克服しようとしていますし、実際に急斜面の割合よりも中緩斜面の方が多かったりするので、今の日本人選手にもチャンスは十分ありますが、なかなか厳しい時代が続いてます。
日本やアジアのFIS公認大会は屈曲型が圧倒的に強い
理由は簡単で
- アジアは中緩斜面でのFIS公認大会が多い。(個人的にこれもどうかと思ってますが・・・)
- 屈曲でもこなせるポールセットなので、加圧しっぱなしでゴールまで行けるので上下動を減らした滑りが有利
- マテリアルも進化し、上下動をしなくとも角付けだけで板がたわむので、あとはスピードを上げ続け、スキー板の反発力に負けない滑り方をすれば良いだけ
もちろん他にも理由はあるでしょうが、中緩斜面が多いと上下動はそこまでしなくともスピードをどんどん上げれば板がしなって反発も強くなるので、逆に上下してる方がタイムロスするというのがここ10年のファーイーストカップの傾向ではないかと見ています。
技術選なんかも佐々木明選手のような滑り方はほぼゼロであり(本当はみんなできるけど)、屈曲型のスキーヤーが多いという印象を受けます。
ただ、ここまで屈曲型とか伸展型とか言ってきましたが、どうもそれだけでは済まない簡単な問題ではないかなとも思ったりもします。
小山陽平選手の捉えの速さ、抜けの速さが佐々木明選手に足りない
この動画の冒頭にターン弧を色分けしたイラストが出てくるのですが、佐々木明選手と小山陽平選手の荷重時間をスローで見てみると
- 小山陽平選手は水色からピンク部分で荷重
- 佐々木明選手はエッジングが短いのがウリですが、ピンク部分で強烈に一瞬で荷重
という違いが下記の菅平のファーイーストカップ映像からわかります。
動画はこちら非常に見応えのあるレースでした。新旧対決であり、
「佐々木明選手VS今の世代」
でW杯レーサーもいる状態。佐々木明選手は一見無難な滑りに見えるのですが、今の時代は圧をためながら横移動しないとタイムが出ないのかな?と。
また2人の違いが他にもあり
- 佐々木明選手はとにかくエッジングが短いので雪煙が少ない
- 小山陽平選手は多少雪煙が上がっても両足荷重でガッツリ荷重。結果、ターンの抜けが綺麗な滑りの佐々木明選手よりタイムが出てる(ここは個人の予想)
といった違いも見て取れます。
W杯のような急斜面ではないですし、荷重時間が長い方が緩斜面などでは有利になりますから、そういった選手に軍配が上がりやすいですが、ポールセット自体は難易度がかなり高いです。
佐々木明選手はもっと攻めてもいい
佐々木明選手の滑りがどこか
昔の基礎スキーのような綺麗な滑り方
に見えたので、もっと板がフォールラインに向けてしならせても良いのではないか、もっとまっすぐ攻めても良かったのではないかと思って見てました。
ただ2人ともスローで比較してみても上手いんですよね。
唯一の違いはやっぱり
ポールを過ぎた後の抜け(加速)が微妙に違う
という印象があります。
2人とも上手くミスが少ないが1ターンずつ佐々木明選手が遅れてるので、滑らせ方に大きな違いが出たかなと見ています。
なのでXで私は
「圧を溜めながら横移動しないとタイムが出ない」
と書いたわけです。
また、もっと突っ込んだ言い方をすると
カーブした時のターン処理に今と昔の大きな違いがある
といった印象があります。
佐々木明選手は180cmの大きな体を生かして足を伸ばして荷重するタイプの選手、つまり伸展加圧タイプですが、屈曲がない分雪面へのパワーが少ないのではないかと思います。
逆に欧州の急斜面に行けば他の日本人選手と互角に戦えそうな気もしてますが、欧州は欧州で強豪が多いという問題もあり、結果として「ファーイーストカップからのW杯狙い」という状況が日本全体で10年ほど続いてる印象があります。
となると、従来通り
「ファーイーストカップでタイトル取るには屈曲型アルペンスキーヤーが有利」
ではないかと私は見ています。そして
「W杯で結果が出ない」
という繰り返しをずっとやってるように見えるのです。
むしろ、急斜面がきついところもどんどん入れて欧州で通用する選手を世界に送る方が長い目で見て良い投資になるのではないかと思うのですが、開催できるスキー場も限られるので難しい部分もあるのかなと思ってます。
日本スキー教程も屈曲型

下記でも解説してますが、日本スキー教程も技術選もアルペンW杯を模範としてきており、基礎スキーもアルペンっぽい滑りに変化してきてます。(ビジュアルもこっちがかっこいいというのもあるのかな?と思います)
ベーシックパラレルターンについて動画でも取り上げてましたが、
- 板のトップで早めに捉えて
- カービングし
- 圧を上に抜かない
- でも上下動が消えたわけではない(SIAはもっと上下動を重視してますね)
といった滑りに変化してます。
アルペンは究極の滑りですが、それをわかりやすく分解し、一般向けにしたのがベーシックパラレルターンなのかなと思うわけです。
上下動は消えたわけではないですが、今のアルペンスキーW杯は少なくとも
テッドリゲティやボディミラー、ヒルシャー引退した時期から大きくターン処理が変化した
のは間違いないでしょう。
私は2023年のアルペンスキー世界選手権男子回転に大きな変化を感じましたが、クリストファーセンが異常に横に振ったポールセットを難なくこなして金メダルを獲得したのは印象的でした。
ちなみに世界選手権の前年にはスキー技術選2022で小回り規制がスタートしており、
世界的に深回りブーム?というか時流になってスピードコントロール重視の時代に入った
感じがします。
2014年のソチ五輪ではアンテ・コステリッチがアルペンの歴史上最も難しいセット(と私が勝手に言ってます)を立てたときは
フルカービングしかできないスキー選手の時代が終わった
と思いましたし、日本人選手も活躍できない時代がこの頃からずっと続いてます。
アルペンW杯であそこまで固いバーンにする必要あるのか?
と言った声やソチ五輪の時も
あんな難しいセットを立てる必要があるのか?
と日本人の著名な方から聞きましたが、それが彼ら(欧州人)の
「次の時代はこんなポールセットでいくから覚悟しいや」
というメッセージと私は受け取ってます。
結局、「欧州人こそ最強」という世界観がアルペンスキーにありますし、ビックタイトル(世界選手権・オリンピック)で次の2年、4年の傾向がわかるのでそこに適応した選手が伸びると思ってます。
オデルマットもオーストリアの雰囲気や勢いに世界選手権で負けました。
スキー理論・研究・気合と根性を全部含めた大会がアルペンW杯なわけですが、ヨーロッパカップ、欧州FISレースでも苦戦が続く日本勢なので、この傾向はまだ続くのかなと思われます。
日本独自のスキー技術を考案して世界で戦うのか、それとも海外の技術に日本人が合わせていくのかわかりませんが、屈曲型にしろ伸展型にしろ
「どちらの日本人選手も世界では通用していない」
のが2025年現在の話です。
仮にSAJに資金が贅沢にあったとしても難しいでしょう。
少なくとも今の深回りのポールセットは明らかに
圧倒的パワーと技術がある欧米人に有利なセット
と私は感じてます。
それだけ太ももに疲労が溜まる滑り方なので、滑りというより栄養面や食事など根本から変えていかないと体も滑りも変わらないと思ってます。
P.S.スキーってホント難しいです。
P.S.2:欧米のスポーツで他の人種が活躍すればルールをパワーゲームに変化させるのが彼らのやり方です。野球なんかまさにそうでメジャーで活躍する選手はみんな体でかくしますよね。DNAで不利になりますから。でも日本人より小柄なポポフは努力型なので日本人も参考になる部分が多いと思います。

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基礎・競技に関係なく使えるスキー上達法についてYouTubeとブログで解説しています。用具に関する話題なども豊富にブログで書いてます。