アルペンスキーが上手くならない人ほど難しいポールセットで毎日一生懸命練習してる。


今回はアルペンスキーがなかなか上手くならない人は難しいポールセットで練習してるという話をします。
結論から言ってしまうと、

難しいポールセットで練習している人は多数派ですが、そのままだと、いつまでも「ずれたターン」を覚え続けてしまう可能性が高い
今日はその話をします。
なぜ頑張っているのに伸びないのか
「難しいポールセット」とは、要するに大会っぽいセットのことです。
大回転にしろ回転にしろ、本番に近いセットで練習すること自体は、もちろん大切です。
ただ、どうなのかな、と思う場面が多いのも事実です。というのも、どのレーシングチームを見ても、そのセットで上手くなっていくのは、
すでにある程度レベルの高い人
だからです。
コーチは
- 外足に乗りなさい
- もっとフォールラインへ向けなさい
- 仕掛け(切り替え)を早く
- ターン後半でずれている
と指示を出します。
けど、その指示を聞いて、難しいセットのなかで実際に体現できるのか——ここに大きな隔たりがあります。滑ってみて「できていない」と言われ、では今度はフリースキーで、と言われても、そう簡単に伸びるわけではありません。
どうすれば伸びるのか——簡単なセットから積み上げる
ではどうやって伸びるのか。
私が何度も伝えているのが、
カービングで、ずらさずに板をたわませて滑る練習(上記動画参照)
です。
これは再現性が高いと感じています。
自分のチームでは、この練習をやってから、後ろのほうにいた選手がいきなり15番手まで上がってくる、といったことが次々に起きました。全員ができたわけではありませんが、コーチの言うことをきちんと聞いた選手は、ずらさずに滑れるようになりました。
似たような練習をしていた小中学生のジュニアチームも、やはり上手くなってるわけです。
子どものうちに基本的なポジションや「板をたわませる」感覚を身につけ、そのベースがあるからこそ、高校で強豪校に進んで難しいセットに対応していける。逆に、基礎スキーから競技に来て、その土台がないまま難しいセットに放り込まれると、かなり苦労することになります。
ポイントは順番です。
真っ直ぐなセットで、板をずらさずに滑れなければ、フルカービングでの深回りは絶対にできません。
だから一番簡単なセットから始めて、少しずつレベルを上げていく。そうすると「自分がどこでずらしているのか」が見えてきます。一本のセットのなかで原因が次々に浮かび上がる。当時はそういう練習をしていました。
そして、真っ直ぐな滑りができて、横振り幅のあるポールでもできるようになったら、また基本のセットに戻す。「外足に乗りなさい」「仕掛けを早く」と確認する。この行き来を繰り返していくわけです。
なぜ「大会セット」がどこでも標準になるのか
それにしても、なぜどの地域・どのチームも、大会さながらのセットを立てて練習するのでしょうか。これには現実的な理由があります。
ひとつは、雪に乗れる日数の問題。
そしてもうひとつは、1〜2月に大きな大会が集中していることです。
インターハイ、インカレ、全中といったビッグイベントから逆算すれば、大会のセットをメインに練習せざるを得ない、という事情があります。
加えて、チームの構成によって「誰を基準にするか」が変わります。
強豪校なら、難しいセットをこなせるレベルの選手が集まるので、自然とその練習になる。
一方、私がいたチームのように、半分は基礎スキー上がり、なかにはスキー自体が初めてという人までいる——いわばストライクゾーンの広い部もあります。そういう集団で「全員が伸びる練習は何か」と考えると、結局は大会的なセット、もしくは基本的なセットに落ち着いていく。各自がフリースキーで調整するという形は、おそらく日本だけでなく世界の標準だと思います。
ただ、繰り返しになりますが、この難しいセットでやっているせいで直らない人は、かなり多いのです。
同じセットでも、伸びる人と伸びない人に分かれる
同じセットでも、伸びる人と伸びない人は必ず出ます。
上手くない選手の多くは、
「ポールでダメ → フリースキー → またポールでダメ → フリースキー」
という往復を繰り返してしまう。これがほとんどではないか、というのが実感です。
監督が誰を基準に考えているかで、選手の育ち方はかなり変わります。
チーム全体が下手なら、下手な人に合わせてもいい。
けれど、弱い人・中間の人・上手い人が混在しているなら、上手い人に合わせていくのが「社会」というものでしょう。下手な人がワールドカップで活躍できるかと言えば、年齢的にも確率的にも難しい。
トップ選手は小学生の頃からすでに上手いのです。日本代表クラスになると、中学生で予選2位に3秒差をつけ、1年の半分は学校にいない——そんな世界です。
このあたりは個人差が本当に大きい。体育会系の雰囲気が好きな人もいれば、苦手な人もいる。だからこそ、画一的ではない「工夫」が必要になります。
「努力」と「工夫」は違う
努力はもちろん大事です。ただし、努力だけでは絶対にうまくいきません。コーチが「いいよ」と言ってくれても、大会で結果が出ないことはあるからです。
ここで切り分けておきたいのが、努力と工夫は別物だということです。
工夫とは「変えること」。練習方法を変える、トレーニングメニューを変える、物事の考え方を変える——これらは、必ずしも大きな努力を要しません。腕立てを100回から1000回にするのは努力(あるいは負荷)ですが、メニューそのものを見直すのは工夫です。
この二つをごちゃ混ぜにせず、きちんと分けて考えたほうがいい。
とはいえ、優しすぎてもいけません。真っ直ぐなポールばかりではレベルの高い選手は育たない。極端に難しいセットもまた必要です。たとえば、オリンピックの男子回転で完走率を極端に下げる難セットを立てたことで賛否を呼んだ、あの名物セッター(アンテ・コステリッチ)のような立て方をする人は、日本にもいます。
完走率30%、30人しか完走しない——そんな大会も、年に何度かあちこちで起きます。
気持ちいいターンをさせてくれないのがアルペンスキーです。
むしろ徹底的に「気持ち悪いターン」をさせるセッターもいる。だからこそ、どんなセットにも対応できる練習が必要で、夏場の筋力トレーニングまで含めてやらなければならない。基礎スキーのような心地よい滑りとは、そもそも性質が違うのです。
いちばんダメなのは「考えない反復」
最も避けたいのは、考えずに同じ練習を繰り返すこと——いわゆる思考停止です。
基礎にも競技にも、何年も同じような練習を続けているチームがあります。それが一つの成功法則であることは確かでしょう。けれど、その陰で「何人の伸びる機会を失っているのか」は、一度考えてみてもいいのではないかと思います。
難しいセットでひたすら思考停止のまま滑り、そのなかで「板をずらすな」と直すのは、経験上、相当に難しい。どのチームへ行っても、合宿でやっても、その場で直せる選手はそう多くありません。絶対ではありませんが、直らないケースのほうが多い、というのが正直な実感です。
もしそういう練習をするセットを立ててもらえないなら、自分でフリースキーで補うしかありません。解説動画を見て、「ずらさないとはこういう感覚なんだ」と繰り返し体に覚え込ませていく。
地道ですが、これが確実です。
ずらす・ずらさない——両方できることが大事
出身によって、弱点は逆になります。
- レーシング出身に多いのは、ずらすのが苦手なこと。急に振ったポールが来ると、対応できずに途中棄権してしまう選手が、ジュニアを中心に少なくありません。
- 基礎スキー出身は逆に、ずらしてしまう癖が抜けない。日本の基礎スキーは横滑りがベースにあるため、アルペンに持ち込むとなかなか抜けない。これは自分自身がまさにそのパターンでした。
だからこそ、両方に対応できる引き出しを増やす「工夫」が要るのです。
カービングが進むほど、「速さと恐怖」が壁になる
カービングするということは、エッジからの抵抗が減るということ。当然スピードが上がります。すると後傾になったり、腕が引けたり、上半身がバラバラになったり、場合によっては転倒したりする。
ではどうするか。
多くのレーシングチームがやっているのは、GS・スラロームだけでなく、高速系の練習を取り入れることです。
例えば私のいたスキーチームはシーズンの大会がすべて終わってから、スーパー大回転の大会に出てスピード系の練習をしてました。
またスキーメーカーチームが春に来たときには、毎年ダウンヒルをやっていた時期もありました。小さなスキー場なので距離は短いのですが、ジャンプを跳んだりして、春は高速系をやっていました。
スピード感覚は、車でつけるわけにもいきません(スピード違反になってしまいます)。そこで、遊園地でスピードの感覚を養う。怖い人はフリーフォールに挑戦してみる。
恐怖にどう向き合うか
個人的には遊園地をおすすめします。お金はかかりますが、恐怖を感じたときに自分がどういう心理になるのかを、客観的に知っておくことには意味があります。
そこで逃げてしまったら、人間は終わりです。
レベルが高くなるというのは、どんな分野でも、壁にぶつかったときに逃げずに「この恐怖をどう克服するか」「何かに置き換えられないか」「プラスアルファのメリットはないか」と発想を切り替えられるかどうかにかかっています。
経営者や投資家にアスリート出身が多いのは、こうした場面で「恐怖との向き合い方」を訓練してきたからではないか、と思っています。これは後天的に身につけられるもので、慣れれば人間は対応できる。特に子どものうちに積んでおくほど、慣れるのが早い。そういう訓練だと捉えています。
基礎の前にポール量を増やすと、悪い癖が強まる
ポールの練習を先に増やしてしまうと、基礎練習がおろそかになり、悪い姿勢がかえって強まる——これはアメリカのスキー連盟の話として聞いたものです。
どちらを優先するかは難しい問題です。
ただ、ここで言う「基礎」とは、おそらくストックワークや腰のポジションといった、いわばシフリンがやっているような練習を指すのだと思います。
彼女の練習やジュニア時代の映像はYouTubeでも見られますが、本当に地味です。ストックを持たず腰に手を当てて両足荷重をやったり、高い姿勢・腰の位置を保ったまま延々と滑ったり。佐々木明選手も佐々木明の流儀の中で、ひたすらストックワークをやらされたと語っていました。スキーを始めたての初心者のところまで戻るような練習を、日本代表クラスの選手ほど、平気でやるのです。
ノルビーチームの古いビデオで見たのは、片足でのスラロームでした。両手にストックを持ち、板は片足だけ。それで普通にパタンパタンと倒していく。しかも、わざと大きなうねりのある斜面で、細かいセットを使ってやっていました。アーモットら、あの世代のノルウェー勢の練習だったと思います。
こうした地道な——血なまぐさいと言ってもいいような——練習をどれだけ積んできたかが、後になって大きな差として表れます。強い選手ほど、地味な練習を積んでいる。 自分の経験からも、そう断言できます。
「基礎スキー」はあくまで基礎、アルペンは応用

日本スキー教程に「応用」という言葉が明記されているわけではありませんが、位置づけとしては、基礎スキーは基礎技術であり、その範囲を超えるものではありません。バックカントリーやアルペン、モーグルが「応用」の位置にある、という整理です。
もちろん基礎の練習も大事です。そのうえでアルペンに限って言えば、ポジション、荷重のタイミング——細かい点はいくらでもありますが——そうした基本を、毎日毎日、何度も繰り返して身につけていくしかありません。
「間違った場所・方向」で頑張らない
上手い選手に共通するもう一つの傾向は、実績のある指導者のもとで練習していることです。ただ、これは絶対ではありません。
代表経験がなくても優秀な成績を収め、ワールドカップへ選手を送り込んでいる指導者もいます。それでも、日本代表経験者に教わったほうが上手くなる「確率」は上がると感じます。実際、自分のいた部でも、1年目・2年目・3年目とランクが上がっていきました。間違ったことはしていなかったのだと思います。
ただし、その練習はどうしてもきつくなります。固い雪ほど反発が強く、それを抑え込むフィジカルがなければ高い次元の滑りはできない。きつい練習を積まなければ勝てない、というのが現実です。
強豪校がやっているのは、月1回のミーティングです。コーチと1対1で進捗を確認し、成績を見て「今こういう位置だね」「うまくいっているね」「原因は何だと思う?」と、選手自身にも考えさせる。コーチも選手から得たものをどうフィードバックするかを詰めていく。こうした場を必ず設けていました。
まとめ
今回いちばん伝えたかったのは、**難しいセットは「良くも悪くも」**だということ。メリットもデメリットもある、という話です。
そしてそのデメリットを受けているのは、アルペン初心者、とりわけ基礎スキーから競技に来た人に多い印象があります。
- まずは簡単なターンから練習し、だんだん難しいターンへ進む。
- うまくなるには、結局確率を上げるしかない。寒くても、上手い人は毎日練習している。
- ただし、間違った・伸びない練習を毎日やっても伸びません。これは要注意です。
- 難しい壁に当たったら、一度簡単なところに戻って確認する。ワールドカップ選手も全員やります。ヘルマン・マイヤーがよくやっていたプルークボーゲンは、実はとても大事な練習です。新しいモデルの板が来たとき、「これだけ角付けすればこう曲がる」と目で確認でき、自分の板の性能を把握できる。
- 伸び悩んでいるなら、一度、練習内容そのものを見直したほうがいい。
真っ直ぐなセットでずらさず、テールを横に向けず、板をきれいにたわませて一本の線で滑る——その具体的なやり方はフルカービングの解説動画にまとめています。まずはそこから始めてみてください。